ドイツの名匠ヴィム・ヴェンダースが日本の名優役所広司を主演に迎え、トイレ清掃員の平山の日常を描いた作品『PERFECT DAYS(パーフェクト・デイズ)』のパンフレットを紹介します!
『PERFECT DAYS』の世界観が表現された素敵なパンフレット。萌えます!
ということで、まずはパンフレット制作に尽力された方々へのリスペクトを込めて、パンフレットの基本情報をどうぞ。
余計な装飾を省いたシンプルでスタイリッシュなデザイン、そしてバラエティに富んだ内容。とても素敵なパンフレットですよ!
では、『PERFECT DAYS』のパンフレットを詳しく見ていきましょう!
デザインレビュー
表紙デザイン
白地に「PERFECT DAY」のスミ文字がいくつか縦に並んで重なり合う感じで配置されてます。実にシンプル。人生は「PERFECT DAY」の積み重ねだという意味が込められているのか、文字が傾いていたり擦れていたりするので、人生には様々な「PERFECT DAY」があるという意味が込められているのか、ちょっと考えさせられる意味深なデザイン。
ちなみに裏表紙には表紙と同じくスミ文字で「WIM WENDERS」の文字。たまに表紙や裏表紙に監督名が掲載されるときがありますよね。それは監督としてのブランドが確立されているからこそできること。名監督の印、巨匠の印が刻印されている裏表紙となってます。
中面デザイン
色味があるのは写真のみで、文字やイラストはすべてスミ(黒)で構成されてます(白抜き文字あり)。そして、使われている書体はほぼほぼ明朝体。とても落ち着いたデザイン。
各ページのデザインは基本的にフォーマット化されていて統一感があり、とても気持ちがいいです。そして読みやすい。かといって単調にならないように、写真が大胆に使われたりイラストが使われていたりと、変化がつけられたページも要所要所にあり、飽きがこないように工夫されてます。
自分の感覚で申し訳ないけど、文字と写真のバランスがいいし、写真の大小のメリハリも効いていて、オシャレな雑誌のよう。
余計な色味や装飾を省いた、間違いなく引き算のデザイン。本作『PERFECT DAYS』も余計なものを排除したような落ち着いた物語なので、本作の世界観とリンクしているような感じがしますね。
大胆さには欠けるけど、とても優れたデザインのパンフレットです!
コンテンツチェック
実にバラエティに富んだコンテンツ内容。とても読み応えがあります。
役所広司さんが主演男優賞を受賞したカンヌ国際映画祭でのこと、ヴィム・ヴェンダース監督が平山に送った手紙、キャストの顔のイラストが掲載されたキャストプロフィール、劇中で平山が読んでいた本の紹介、役所広司さんのインタビューや高崎拓馬プロデューサーのコラムとか、とか…このパンフレットで本作のすべてがわかる!というのは大げさですが、かなり深いところまで知ることができます。
この作品が作られるきっかけとなった「THE TOKYO TOILET(TTT)」のプロジェクトことも知ることができたので(僕は東京在住ですが、恥ずかしながらこのプロジェクトは知らなかった)、非常に有意義なパンフレットでもあるなと感じましたよ。
キャストインタビューは主演の役所広司さんだけで、その他のキャストでは田中泯さんが寄稿。キャストというより監督やプロデューサーなど、プロデュース側が前面に出ているようなパンフレットです。
内容的、ボリューム的には素晴らしいと思うんですけど、プロデュース側の話が多過ぎるような、ちょっと偏りがあるように感じたのも事実。キャストインタビューは役所広司さんだけだし、寄稿されたのは田中泯さんだけ。個人的には、柄本時生さんとかアオイヤマダさんとか中野有紗さんらキャストの声を聞きたかったです。あと、麻生祐未さんとか。何かちょっと物足りなさを感じちゃいました。
作家の川上未映子さんが対談(パンフレットに掲載)で少し触れられていましたけど、この作品の平山のようなある意味自由な生き方(川上未映子さんは「選択的没落貴族」と言っていた)を見た若い子たちが、どのような感想を持つのか気になるようなことをおっしゃっていて(僕もそこは気になってた)、だからこそ若いキャストの方々は本作をどのように感じているのかという声が聞きたかったな。
そして麻生祐未さん。川上未映子さんもおっしゃっていたけど、平山の妹がいちばん僕たち観客に近い存在なんですよね。だからそこ、平山の妹を演じた麻生祐未さんは平山をどう思ったのか、ぜひとも聞きたかったですね、麻生祐未さんの声を。
このパンフレット内容、構成をどう捉えるかによってパンフレットの印象というか評価が変わりそうです。作品自体に興味のある方にとってはとても充実した内容で楽しめると思うし、キャストの声を聞きたかった方にはちょっと物足りなさを感じるかもしれないです。
では、パンフレットに掲載されている内容をピックアップしてレビューしていきますね。
役所広司インタビュー
役所広司さんのインタビュー。平山が住む押上のアパートで行われたらしく、それだけで胸熱ですね。
役所広司さんの真面目で誠実な雰囲気が漂う素敵なインタビューでした。
この作品に出演することになった経緯、演じた平山のこと、ヴィム・ヴェンダース監督のこと、撮影のこと、そして役所広司さんご自身のことなど、本作に関することだけしゃなくパーソナルな部分まで語られています。とても奥行きのあるインタビューでおもしろかったです。
僕が特におもしろい、というか興味深かったのは、ラストシーンを含めた平山の感情表現のところ。仕事仲間であるタカシ(柄本時生)が辞めたことによって平山に負担がかかって声を荒げるシーンはとても印象的でしたが、役所広司さんもインタビュアーの方も気になったようで(個人的には平山の印象がガラッと変わった)。僕もとても気になっていたので、このシーンのことに触れられていたのはうれしかったです。
いろんな捉え方ができるあのラストシーンの感情表現にも言及されていました。個人的にはかなりインパクトがありました。このシーンに関しては、本作を鑑賞した方なら皆気になるところですよね。役所広司さんはどのような気持ちで演じられたのか、気になりますよね。知りたい方はパンフレットを買って読んでね。
トイレ清掃のことや劇中のシーンのこと、そして名優・笠智衆さんのことなど、とにかく幅広く本作のことや役所広司さん自身のことが語られていますよ。
この役所広司さんのインタビューは写真を含めて全部で6ページにわたって掲載されています。映画のパンフレットのキャストインタビューとしてはかなりボリューミー。おもしろいので、読むべし。
特別対談/川上未映子 × 柳井康治
作家の川上未映子さんと本作の企画・プロデュースをした柳井康治さんの対談が、このパンフレットでいちばんフェアな意見が聞けるページでとても良い企画ページだなと思いました。
この川上未映子さんと柳井康治さんの対談は必読!
なぜ川上未映子さんと対談したのかという理由は謎ですが、本作に対するご自身の意見をズバッとおっしゃっていて、個人的には共感する部分もあり、とてもおもしろかったです。
「選択的没落貴族」と川上未映子さんが言っていた平山の生き方や、汚いところ(汚物とか)が出てこないトイレの描写とか、鑑賞中にちょっと気になっている部分に対してしっかりと意見する川上未映子さんにかなり好感を持ちました。平山の生き方は確かに家族を持たずに1人で生きているからこそできる生き方だと思うし、トイレ清掃だって実際は汚物まみれのところもあるだろうし、すべてキレイなところだけで構成されている感はありましたからね。
このような意見や感想を聞いて、対談相手である柳井さんはどう感じたんでしょうかね。痛いところを突かれたような、そんな気はしたんでしょうか。
川上未映子さんは、この作品を観て、平山の生き様を見て、今の若い子たちがどのように感じたのか興味があると語られています。これは僕もホントに興味がある。
僕は家族がいて子どももいて、今は絶対に平山のような生き方はできないけど、どこか憧れとか羨ましさを感じたりはしたんですよね。でも、今の若い子は恋人を作りたいと思わなかったり結婚したいと思わなかったりするわけでしょ。ひとりがいいって思う若者が多いわけでしょ。
そんな今の若い子たちは平山の生き方は心に響いたりするのかは疑問。こんな自由な生き方いいなぁ羨ましいなぁなんて思わないような気はしますよね。平山に共感はするけど響くことはないような。そういった意味でも若い子たちの感想を聞きてみたいです。平山の生き方をどう感じたのだろう。
この作品の外側にいる(観客という意味で)川上未映子さんの対談(意見)はおもしろかったです。興味深く読みました。僕のX(旧Twitter)のフォロワーさんの中には、本作を肯定的に見てない方もいたので、川上未映子さんの感覚に近いものがあるのかなと思ったりしました。
THE TOKYO TOILET
「THE TOKYO TOILET (TTT)」
これに触れないわけにはいかないですよね。
汚い臭いといったネガティブなイメージを変えて、誰もが使いたくなるトイレを目指すという渋谷区の公共プロジェクト。
僕は東京在住なんですが、このプロジェクトの存在を恥ずかしながら知りませんでした…。
本作『PERFECT DAYS』はこのプロジェクトの一環としてスタートしたらしいです(元々はショートフィルムで、ということだったらしい)。
トイレをだだの建築物としてではなく、価値・意義のあるものとして捉えてもらうため、そしてトイレを使用する人たちの行動変容を引き起こすためにアートの力を借りたようです。隈研吾氏や安藤忠雄氏ら有名建築家たち(建築家じゃない人もいる)がデザインしたトイレは素敵なので、確かにキレイに使おうって思いますよね。
いやいや、どんなトイレでもキレイに使えよ…。
個人的には素敵なプロジェクトだと思うので、こういうことを知ることができただけでも、このパンフレットを買った甲斐があったと思いました。このプロジェクトは渋谷区のトイレだけですけど、このプロジェクトが東京全体に、全国各地に少しずつでも広がっていけばいいなぁと、素直に思います。
小さいですが、パンフレットには16ヶ所のトイレの写真と説明文が掲載されています(現在は17ヶ所)。「THE TOKYO TOILET (TTT)」の書籍も販売されてるようなので、ご興味のある方はぜひ。
劇中にも登場したスケルトンのトイレがとても気になったんですよね。普段はふつうのガラス張りで透明なんだけど(中に誰もいないことがわかる。だから安心安全!)、使用するときに鍵を締めると曇りガラスになるトイレ。
このスケルトントイレは建築家・坂茂さんのデザイン。トイレの名称は「ザ トウメイ トウキョウ トイレット」。代々木公園に隣接する「代々木深町小公園」に設置されているようですよ。
このトイレを利用してみたい気がするのは僕だけでしょうか。
総評
実に本作の世界観とリンクしているような、シンプルでどことなくオシャレさが漂うスタイリッシュなデザイン。内容はバラエティに富んでいて読みごたえバッチリ。とてもクオリティの高いパンフレットです。
紹介しきれなかったけど、田中泯さんの自筆の寄稿は味があって良かったし、写真家の森山大道と操上和美さんの写真も素敵だったし、劇中で登場した本を絡めて展開される翻訳家の柴田元幸さんのコラムもおもしろかったですよ。満足度もかなり高いです。(欲を言えば、映画ライターさんのコラムがあればもっと良かったかな。)
これが1100円(税込)で購入できるとは!安い買い物!
本作『PERFECT DAYS』をもっと知りたい方、ヴィム・ヴェンダース監督作品が好きな方、役所広司さんのファンの方にはオススメできるパンフレットです。
そして何より本作『PERFECT DAYS』を気に入ったそこのあなた、オススメしますよ。