映画パンフレットレビュー。第96回アカデミー賞5部門にノミネート!ジュスティーヌ・トリエ監督作品『落下の解剖学』

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人里離れた雪山の山荘で暮らす家族3人と愛犬1匹。ある日、山荘近くの雪の上で、視覚障がいを持つ少年が血を流して倒れている父親を発見したがすでに息絶えていた。事故か、自殺か、他殺か…死の真相はいかに。

第76回(2023年)カンヌ国際映画祭コンペティション部門で最高賞のパルムドールを受賞し、第96回(2024年)アカデミー賞で作品賞・監督賞・脚本賞・主演女優賞・編集賞の5部門にノミネートされた法廷サスペンス『落下の解剖学』のパンフレットを紹介します!

レンツ
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映画『落下の解剖学』の理解が深まるし、デザインも秀逸。素敵なパンフレットです!萌えます!

ということで、まずはパンフレット制作に尽力された方々へのリスペクトを込めて、パンフレットの基本情報をどうぞ。

パンフレット基本情報
  • サイズ:171mm × 257mm
  • ページ数:28ページ
  • 発行者:大田圭二
  • 発行所:東宝株式会社ライツ事業部
  • 発行権者:ギャガ株式会社
  • 編集:株式会社東宝ステラ
  • デザイン:印南貴行、森桃子(MARUC CO.,LTD.)
  • 印刷所:日商印刷株式会社
  • 発行日:2024年2月23日
  • 定価:880円(税込)
パンフレット掲載内容
  • INTRODUCTION
  • STORY
  • レビュー/門間雄介(ライター/編集者)
  • キャストプロフィール
  • インタビュー/ジュスティーヌ・トリエ監督
  • コラム/森直人(映画評論家)
  • スタッフプロフィール
  • レビュー/齋藤敦子(映画評論家)
  • レビュー/斎藤環(精神科医)
レンツ
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では、『落下の解剖学』のパンフレットを詳しく見ていきましょう!

デザインレビュー

表紙デザイン

積もった雪を想起させるザラっとした質感の白い紙。その下部に少し濁った赤い文字で『ANATOMY OF A FALL』。

これはまさに雪の上に横たわる死体を表現しているのでは。

とてもシンプルなデザインなんだけど、本作の不穏な世界観が凝縮されている素晴らしい表紙です。

で、問題なのがこの謎の四角。

表紙上部にあるツルッとした質感の謎の四角。

レンツ
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なにコレ?これナニ?

この四角い部分をくり抜いて窓のようにすれば、その窓からは次のページに掲載されている本作の超重要なシーン(ポスターやリーフレットに使われたスチール写真)がちょうど覗いて見えるんですよ。

真実を見ようとしなければ(四角い部分をそのままにする)真実を知ることはないし、真実を見ようすれば(四角い部分を切り抜く)真実を知ることができるという、それは観る人=あなた次第ですよと試されてるような、実に意味深な四角。

本編でも試されてパンフレットでも試されるという、どれだけ観客を試すんだよ、この作品は。見事。

中面デザイン

空間(余白)の使い方が絶妙

書体はオーソドックスな明朝体とゴシック体が使われてます。スチール写真はすべて角版。デザインを構成する要素は無難ですが、このパンフレットは空間(余白)の使い方が絶妙なので、デザインにオリジナリティが生まれてるんです。

ページの上部に大胆な空間を作って下に文章を配置したり、逆に下部に空間を作って上部に文章を配置したり、ほぼ全ページで不均等な空間を作ってレイアウトされています。

デザインって、左右の空きを均等にして作った方が安定感があって読みやすいんですよね。その分デザイン的にはつまらなくなったりすることもあるんですけど。

でもこのパンフレットのレイアウトは基本的に上下左右の空きが均等じゃないんです。空き具合がアンバランスなのでちょっと居心地の悪さといいますか、とても不安な気持ちにさせられるんです。

そう、この不安な感じはまさに本作の空気感、世界観ですよね。表紙同様、中面のデザインも本作の世界観を見事に表現しています。

「落下」を意識したデザイン

必ず「縦書き」の要素が入ります。

このパンフレットは左開き(右から左にページをめくる)なので、基本的に文章は横書き。でも、このパンフレットではタイトルなど一部の要素が縦書きで配置されてるんです。

これはなぜか。僕が考えるに、縦書きって目線が上から下へ移動しますよね。つまり「落下」を表現しているのではないかと思うわけです。全ページで縦書き要素があるってことは、確信犯だと思いますよ。

そしてこのパンフレットでもっとも秀逸なのはノンブルデザインです。ノンブルとは本や冊子のページ端に記載されているページ番号のことで、ページの下の方に配置される場合が多いです。

このパンフレットはノンブルの位置を下の方ではなく、左右に配置しています。専門的な言葉を使うと「小口」に配置されているんです(ページを開いときの外側。ちなみに内側は「のど」と呼ばれています)。

そしてこのパンフレットのノンブル、ページが進むごとに段々と位置が下がってくるんです。つまりノンブルも「落下」しているんです!

もうね、こういう細かいデザインは個人的に大好き。デザイナーさんのセンスを感じます。

アンバランスな余白を作り不安にさせて、縦書き要素を配置したり、ノンブルの位置下げながら落下を表現する。本作を表現した見事過ぎるデザイン。最高。

レンツ
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とてもコンセプチュアルなデザイン。素晴らしいです!

コンテンツチェック

レンツ
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では、パンフレットに掲載されている内容をピックアップしてレビューしていきますね。

ジュスティーヌ・トリエ監督インタビュー

なぜこの作品を撮ろうと思ったのかという出発点、物語の中心である夫婦間の問題について、キャストのこと、そして本作でもっとも重要なシーンである「口論のシーン」や「ダニエルと父親の会話のシーン」についてなどに言及されてます。

特に夫婦間の問題についての言及はとても興味深かったです。フェミニズムっぽさはあるものの(ジュスティーヌ・トリエ監督はフェミニズムの活動家らしい)夫婦間の問題提起としては納得感がありました。

我が家は本作の夫婦とは立ち位置が逆ではあるけど(僕が主に稼いで奥さんが主に家事をやる)、あの口論に関して何だか心当たりがあるような、ないような…ちょっと身につまされる思いでした。

事故か自殺か他殺か、という法廷サスペンスではあるけど、ジュスティーヌ・トリエ監督のインタビューを読むと、サスペンスだけじゃなくて、男女間の愛情とか力関係とか、家族のこととか、もっと身近のことを描いていたんだと思いました。

作品に対する理解度がグッと深まる監督のインタビューでした。

レンツ
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ジュスティーヌ・トリエ監督への質問をページの左側へ配置して、その右側に監督の言葉を配置するというレイアウトがとても読みやすくてグッドでした!

レビューは3本

ライター・編集者の門間雄介さんは「愛の破滅のその先へ」というタイトルで、映画ライターの齋藤敦子さんは「俳優・ザンドラ・ヒュラーと監督・ジュスティーヌ・トリエ 崩壊と挫折」というタイトルで、精神科医の斎藤環さんは「トラウマとコンテクスト」というタイトルでレビューを寄稿しています。

本作のような答えが出ない系の作品って、鑑賞後に結構モヤモヤが残るんですよね。そのモヤモヤを解消してくれるような、とてもわかりやすいレビューになってます。

このように作品を言語化(文章化)してくれると思考が整理できるし、新たな発見があったりして、作品への理解がより深まるんですよね。

齋藤敦子さんのレビューは、ザンドラ・ヒュラーとジュスティーヌ・トリエ監督のこと、そして過去作についても触れられていて、他のお二方とは趣が違いますが、これはこれでおもしろかったです。そして本作を「深くて怖い映画」と評したのは的確だなと個人的には思いました。

レビューを寄稿したお三方ともに、ダニエルがとった行動や判断に関することに触れてレビューを締めくくっているのがおもしろい(ダニエルがキーパーソンなので当然ではあるけど)。

この締めくくりを読んで、ダニエルに注視してもう一度『落下の解剖学』を観てみたくなりました。

レンツ
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レビューを読んで、僕はサンドラが犯人だと思うし、ダニエルはそれを庇っているのでは、と思いましたけど、どう思います?

コラム/森直人(映画評論家)

森直人さんご自身が本作を解剖した「解剖メモ」の一部を公開し、考察を展開するという形のコラム。オリジナリティがあっておもしろかったです。

「解剖メモ」の中で特に愛犬スヌープに関する考察はおもしろい着眼点でしたよ。そしてちょっと納得しちゃいました。確かに終盤のサンドラとスヌープのシーンは意味深だったような気が。もし森直人さんの考察通りだったら、怖いです、サンドラ。

森直人さんご自身も本作の結末には疑問符かついているような、そんな「解剖メモ」コラムでした。一読の価値があるコラムでしたよ。

総評

デザインはとてもコンセプチュアルで秀逸でした。実に素晴らしいです。

主演のザンドラ・ヒュラーのインタビューやプロダクションノートが無くて、内容的には正直物足りなさを感じました。レビューやコラムは充実していたので、惜しい。

全体的にはうまくまとめられているパンフレットで、お金を出して買う価値は十分にあると思いますよ。

レンツ
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これが880円(税込)で購入できるとは!安い買い物!

本作を観てちょっとモヤモヤした方、考察好きの方、デザインが好きな方、映画『落下の解剖学』をもっと知りたい方に自信をもってオススメできるパンフレットです。

そして何より本作『落下の解剖学』を気に入ったそこのあなた、絶対に買ったほうがいいですよ。

レンツ

映画大好き(おじさん)デザイナー。1男1女の4人家族の細大黒柱。オールタイムベスト映画はトレインスポッティング(1996)、ブレードランナー(1982)、ファーゴ(1996)。甘いラブストーリーはちょっと苦手。

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