浪人・柳田格之進は身に覚えのない罪をきせられた上に妻を喪い、故郷の彦根藩を追われ、江戸の貧乏長屋で娘のお絹とふたりで暮らしている。ある日、旧知の藩士から冤罪事件の真相を知らされた格之進とお絹は復讐を決意する…
『凶悪』『孤狼の血』の白石和彌監督が初めて時代劇のメガホンをとり、『ミッドナイトスワン』の草彅剛を主演に迎え、武士の誇りをかけた仇討ちを描いた『碁盤斬り』のパンフレットを紹介します!
本作の主人公・柳田格之進の性格を表したかのような、誠実な作りの王道パンフレット!萌えます!
ということで、まずはパンフレット制作に尽力された方々へのリスペクトを込めて、パンフレットの基本情報をどうぞ。
では、『碁盤斬り』のパンフレットを詳しく見ていきましょう!
デザインレビュー
表紙デザイン
A4サイズ(210mm×297mm)のパンフレット。
草彅剛さんの凛々しい横顔。雰囲気のある『碁盤斬り』のタイトル文字。刀の斬り跡を模した斜線。作品のシリアスな世界観を見事に表現した素敵な表紙デザイン。めちゃくちゃ迫力があってかっこいい!
A4サイズでも迫力があるので、ポスターはもっと迫力があって映えるはず!
デザインを細かく見ていくと、まず、刀の斬り跡がとてもスタイリッシュ。その刀の斬り跡に沿って配置された英字がまるで刀の残像のようで、一気に紙面に動きが出てきますよね。うまいです。
そして、さりげなく英字を入れるあたりがまたオシャレ。若者にはややハードルが高い時代劇を、英字を入れることで少し身近に感じさせるような表現でとても秀逸。
草彅剛さんの凛々しい横顔で勝ち確定なんですが、しっかりとデザインも凝られていて素晴らしいです。
中面デザイン
白地ベースで文字はすべて黒。本文すべてに明朝体が使われてます。写真はすべて角版。デザインを構成する要素はとてもシンプルです。
文字の大きさ、行間、写真の大きさや配置、余白の取り方などのバランスがとてもいいので、気持ちよく読み進められます。
特徴的なのは黒くて細い罫線。碁盤の黒い線をイメージして使っているんだと思いますが、案外効いてます。デザイン的にはシンプルなんですが、この黒い罫線によって雰囲気が出てます。個人的には好きなタイプのデザイン。欲を言えば碁石をイメージさせるような工夫があっても良かったかな(例えばキャストの名前のひと文字を●の白抜き文字にするとか)。
シンプルだけどとても読みやすくて、パンフレットデザインとしてのクオリティは高いですよ!引き算のデザインです。
コンテンツチェック
では、パンフレットに掲載されている内容をピックアップしてレビューしていきますね。
「草彅剛インタビュー」「キャストコメント(総勢8名!)」「白石和彌監督インタビュー」「スタッフコメント(脚本&音楽&美術)」「レビュー」「プロダクションノート」など、押さえるところをしっかりと押さえている、王道の内容となってます。
草彅剛インタビュー
役作りのことや、ご自身が演じた柳田格之進のキャラクターのこと、白石和彌監督のこと、共演者のことなどが見開き2ページにわたって掲載されてます。
役づくりに関するところで、京都撮影所や高倉健さんのことに言及されていて、時代劇の伝統のようなものが受け継がれていく理由が何となくわかり、とても興味深く読みました。
個人的にいちばんおもしろかったのは、「格之進の好きなところ、あるいは嫌いなところ」についての受け答え。格之進を理解できないだとか嫌いだとか、ズバッと斬って落とすあたりはさすが草彅剛。笑っちゃいました。
草彅剛さんらしい正直といいますか、ハッキリとしたとても気持ちの良いインタビューで、読んでいてとても楽しかったです!
キャストコメント
清原果耶さん、中川大志さん、奥野瑛太さん、音尾琢磨さん、市村正親さん、斎藤工さん、小泉今日子さん、そして國村隼さんという、錚々たる顔ぶれのキャストコメント。
そんな錚々たるメンバーの中でも清原果耶さんのコメントには驚きました。作品のことや役づくりのこと、草彅剛さんや白石和彌監督のこと、そして撮影中のエピソードなど、とても読みやすくわかりやすく、そしてご自身の言葉として語られていて、とても22歳とは思えないほどの落ち着きを感じさせるコメントでした。
ドラマや映画に引っ張りだこな役者さんだけに、場数が違うんでしょうね。だからこんな落ち着いたコメントを残せるんだと思いました。まだ22歳。どこまで行くんでしょうかね。
他には、最後の一文がすべてを物語っていて最高だった中川大志さんのコメント、ご自身の撮影のすべてを詰め込んだようなユーモアあふれる奥野瑛太さんのコメント、本作のことや撮影現場での草彅剛さんのことを独特な言い回しで表現された斎藤工さんのコメントが良かったです。
主演クラスしかコメントを掲載しないパンフレットがあったりする中、主要キャスト全員のコメントが掲載されるとは、なんて素晴らしいパンフレットなんでしょう。
とても読み応えのあるキャストコメント。必読です!
白石和彌監督インタビュー
時代劇を作ることになった経緯や脚本家の加藤正人氏とのやりとり(「復讐」のくだりがおもしろかった!)、草彅剛さんのこと(大絶賛!)、清原果耶さんをはじめとするキャストのエピソードなどが見開き2ページにわたって掲載されてます。
「高倉健を継ぐ男」として草彅剛さんを魅力的に語る白石監督の草彅剛評はおもしろいし、その他キャストのエピソードはボリューミーだし(インタビューページの半分弱くらい!)、間違いなく読み応えがあるんですが、個人的にいちばん心に残ったのは、この物語の本質についての言及。
白石監督が語る「テーマ」についての言及を読むと本作への解像度が一気に上がります。格之進の生き方、生き辛さがまさに今を描いている、ということなんでしょうかね。本当に大事にしなきゃいけないものって…なるほど納得。
レビュー/石津文子(映画評論家)
「日本映画の遺伝子を受け継ぐ者」と題した映画評論家の石津文子氏のレビュー。
往年の名優の笠智衆さん、三船敏郎さん、高倉健さんの名前を出しながら、日本映画の遺伝子を受け継ぐ者=草彅剛さんを評する寄稿。
ちょっと持ち上げすぎじゃないの?なんて思いながら読み進めるうちに、確かにこのお三方の個性を草彅剛さんはすべて持ち合わせているように思えてくるから不思議。石津マジックでしょうか(マジックじゃなくて説得力)。
過去の様々な時代劇作品や登場人物を解説しつつ、草彅剛さん演じる格之進との違いや類似性に言及して展開される石津氏の寄稿は、僕のような時代劇弱者にもわかりやすくて本作の理解度がアップしました。と同時に、時代劇も悪くないなぁなんて思わせてくれました。いいレビューです。
惜しかったところ
映画パンフレットとしては十分な内容で満足度は高いんですが、惜しいところがふたつほど。
まずは、本作は『柳田格之進』という古典落語がベースになっている、という特徴があるのに、落語についてあまり触れられてなかった点が惜しい。本作の脚本を担当した加藤正人氏のコメントで少し言及されてましたが、落語についてもっと深堀して欲しかったなと思いました。
もうひとつ惜しかったのは、せっかく囲碁が題材になっているのに、あまり囲碁に触れられていない点。囲碁の歴史とかルールとか戦法とか、囲碁の解説が欲しかったです。
加藤氏のコメントに、今年は日本棋院が創立100周年、落語協会も100周年を迎えるとあったので、そんなアニバーサリーな年に「落語」と「囲碁」をモチーフにした映画が公開されたというのはとても奇跡的なこと。せっかくなので「落語」と「囲碁」に目を向けて欲しかったなと思いましたよ。
もう少し踏み込んだ内容にすればもっと映画パンフレットの価値が上がるのかなと、個人的には思いました。
総評
迫力のある表紙デザイン。可読性が高いシンプルな中面デザイン。キャストインタビューやコメント、監督インタビュー、プロダクションノートなど充実した内容。デザイン、内容ともにクオリティの高いパンフレットです。
お金を出して買う価値は十分すぎるほどにありますよ。
これが880円(税込)で購入できるとは!買って損なし!
草彅剛ファンの方、白石和彌監督作品が好きな方、時代劇が好きな方や新たに興味を持った方に、自信をもってオススメできるパンフレットです。
そして何より本作『碁盤斬り』を気に入ったそこのあなた、絶対に買ったほうがいいですよ。