第二次世界大戦中、後に「原爆の父」として知られる天才的な物理学者のロバート・オッペンハイマーは、優秀な科学者たちを率いて原爆の開発に成功するが…
『ダークナイト』『インセプション』『ダンケルク』『TENET(テネット)』などの大作を世に送り出してきたクリストファー・ノーラン監督が描いた歴史映画『オッペンハイマー』のパンフレットを紹介します!
デザインは比較的シンプルですが、本作『オッペンハイマー』の内容がビシッと詰まった満足度の高いパンフレットです!萌えます!
ということで、まずはパンフレット制作に尽力された方々へのリスペクトを込めて、パンフレットの基本情報をどうぞ。
では、『オッペンハイマー』のパンフレットを詳しく見ていきましょう!
デザインレビュー
表紙デザイン
A4サイズ、横型のパンフレット。
帽子に手を掛けているうつむき加減のオッペンハイマーのモノクロ写真が全面に。その上に白抜き文字で「OPPENHEIMER 」。
シンプルだけど、渋くてとてもかっこいい表紙デザイン。
劇中、モノクロシーンが印象的に使われているので、本編とリンクしている感じもいいですね。
本作のシリアスな雰囲気が表現されている素敵な表紙!
中面デザイン
本作の内容が内容なだけに、デザイン的な遊びはありませんが、とても真面目で実直なデザイン。
文字はすべてゴシック体が使われてます。写真はすべて角版。黒、白、オレンジの3色で構成されています。オレンジは爆発の炎をイメージしているんでしょうか。このオレンジがいいアクセントになってます。
文字量はかなり多いですが、ゴシック体でかつ行間がしっかりと確保されているので、可読性はかなり高いです。可読性が高いと読むストレスが軽減されるので、文字量の多い冊子ではとても重要。可読性の高さはこのパンフレットの素晴らしい点のひとつです。
写真に関しては劇中のカットはそれほど多く掲載されてないけど、全面写真ページが多くあるので、本作の雰囲気がよく伝わってくるし、パンフレット自体に広がりや迫力が感じられます。
パンフレットの内容や読みやすさを重視したデザイン。作品に対するリスペクトが感じられるデザインで、好感度高いです!
コンテンツチェック
では、パンフレットに掲載されている内容をピックアップしてレビューしていきますね。
「オッペンハイマーの年表」「用語集」「キャスト紹介&コメント」「監督インタビュー」「プロダクションノート」「コラム&レビュー」などなど、かなり充実した内容になってます。文字量も多くて満足度は高いですよ。
キャスト紹介
オッペンハイマーを演じたキリアン・マーフィーやオッペンハイマーの妻キティを演じたエミリー・ブラント、最重要人物ルイス・ストローズを演じたロバート・ダウニー・Jr.など、総勢16名ものキャストの簡単な経歴やご自身が演じた人物についてのコメントが掲載されています(ケイシー・アフレックとラミ・マレックはプロフィールのみ)。
自分が演じた人物への思いだとか、演じるにあたってどのように役にアプローチしていったのかなど、演じたキャスト本人が演じた役を語るので、とても説得力があるし、その人物を理解しやすいんですよね。
本作はオッペンハイマーの物語であると同時に、原爆開発に関わった人物たちの群像劇でもあるので、登場人物のことを知るだけでもかなり本作への理解が深まります。
登場人物が多いので、このように一人ひとりを丁寧に取り上げてくれるのはとてもありがたいです。
キャストそれぞれ、ちょっとした裏話も書かれているので、読み物としてもおもしろいですよ(ロバート・ダウニー ・Jr.のヘアカットのくだりはちょっぴり笑えたし、ベニー・サフディの人生の選択のくだりは運命的でしびれた)。
キャスト本人のこともわかるし、登場人物のこともわかるし、役へのアプローチの仕方までわかるという、キャストそれぞれのプロダクションノートのような編集で読み応えがあります。とても秀逸なキャスト紹介ページ。必読です。
レビュー&コラムが5本
レビューとコラムが5本というのは、映画パンフレットの寄稿本数としては多いですね。
映画批評家・映画史家の尾崎一男氏の寄稿は、スタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』を例に挙げて、撮影のテクニカルな部分を中心に話が展開されてます。
僕はカメラのことやフィルムのことに関してはまったくのど素人なので、詳しいことはわかりませんが、ノーラン監督がいかにこだわって撮影していたのかがわかる寄稿で、IMAXだの35mmカメラだの70mmカメラだの、撮影のテクニカルなところに興味を持ちました。映画の楽しみ方がひとつ増えそうな気がするので、ちょっと勉強してみようかな、なんて思ったりしましたよ。
映画監督の李相日氏の寄稿は、ノーラン監督のこれまでの作品、そして本作におけるノーラン監督らしい描写について書かれています。
個人的にはノーラン監督は映像表現のおもしろさに長けた監督だと思っていたけど、感情であったり理性であったり、人間の内面を描くことにも長けているのかな、なんて李氏の寄稿を読んで思いました。完全にノーラン監督をフィーチャーした寄稿となっていて、過去作をまた観たくなりましたよ。
映画批評家の森直人氏の寄稿は、ギリシャ神話に登場する「神の火」や「パンドラの箱」、過去の偉人たち、そしてノーラン監督の過去作を例に挙げながら、オッペンハイマーの悲劇がドラマチックに語られています。「オッペンハイマーとストローズの関係性」と「モーツァルトとサリエリの関係性」の類似点を見出すくだりは納得感があって特におもしろかったです。
映画批評家の秦早穂子氏の寄稿は、ご本人が経験した戦時のことが生々しく書かれています。
このパンフレットに寄稿された5本の中で、もっとも印象深かったです。
本作はオッペンハイマーの生き様が描かれるわけだけど、鑑賞している間は戦時中という大事なことが抜け落ちていたことにこの秦氏の寄稿を読んで、ハッと気付かされました。天才たちがロスアラモスで原爆を開発している間、そしてそれを落とした日本では悲劇が起こっていたんだと。本作『オッペンハイマー』の余韻から現実に引き戻してくれる素晴らしい寄稿です。
空襲や疎開、そして広島と長崎への原爆投下。このような、忘れてはいけない事実をパンフレットに掲載されたのは意義深いと思いました。
素粒子物理学者で本作『オッペンハイマー』の字幕を監修をした橋本幸士氏の寄稿は、ご自身の物理学への思いや可能性のようなものが書かれています。物理学愛みたいなものが感じられて、とても興味深く読みました。
なぜ本作の字幕監修を引き受けたのかという理由についても言及されていて、物理学者としての興味や責任、そして歴史を感じました。僕はこのような作品を観ない限り「物理学」に触れることはないので、物理学者の思いの一端を知ることができたのはよかったです。
プロダクションノート
本作『オッペンハイマー』の制作の裏側が6ページにもわたって掲載されています。文字がビッシリと詰まっていてとてもボリューミー(ざっくり計算すると22,500文字ほど。多い!)。
6ページの中で、写真は4点しか掲載されていません。デザイナーの視点から言わせてもらうと、もう少し文字量を減らし、写真の点数を増やしてレイアウトした方が読者にとっては読みやすのでは?なんて思うけど、おそらく削れる文章がなかったんでしょうね(あるいは削りに削ってあの文字量になったのか)。
オッペンハイマーの物語を描くことへのノーラン監督の思い、印象的なトリニティ実験場をはじめとするロケーションのこと、本作の世界観を表現するための重要な役割を担った衣装やヘアー&メーキャップのこと、核爆発シーンの撮影秘話などなど、制作に関することが余すところなく詳細に書かれています(このプロダクションノートの充実ぶりを思うと、これ以上文章は削れないかな)。
オッペンハイマーやストローズら主要登場人物の衣装デザインやヘアー&メーキャップデザインに関するところも非常に興味深かったけど、個人的にいちばんおもしろかったのは、トリニティ実験の核爆発や、きのこ雲の撮影(視覚効果)に関する記述。ノーラン監督のこだわりが凝縮されているような撮影方法で、こりゃスタッフは大変だったろうなぁなんて思ったり。この恐ろしい核実験の爆発シーンは本作のハイライトですからね。こだわりにこだわり抜いた監督と監督のアイデアを具現化したスタッフに拍手を送りたいです。
ちなみに原爆の爆発シーンの手法はトップシークレットらしいです。気になる…
総評
映画の内容が内容なだけに派手さはないけれど、とても真面目で実直なデザインです。内容が充実していて文字量が多いですが、可読性に配慮されたデザインにもなっている点が素晴らしいです。誠実な作りで、パンフレットしてのクオリティが非常に高いです。
お金を出して買う価値は十分すぎるほどにありますよ。
これが1,200円(税込)で購入できるとは!お買い得!
本作を観てちょっと理解が追い付かなかった方や、オッペンハイマーのことや原爆開発当時のことをもっと深く知りたい方に、自信をもってオススメできるパンフレットです。
そして何より本作『オッペンハイマー』を気に入ったそこのあなた、絶対に買ったほうがいいですよ。